2012年05月17日
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オルランドと超空洞宇宙

Written By: 遠野秋彦連絡先

 我々の宇宙は一様ではない。超銀河団の間には、発光する星々の無い超空洞が存在し、その多くは人類にとって未知の領域であった。

 そこが未知領域であることにはもう1つ理由があった。オルランドを始め、多くの超巨大勢力は超空洞の探査を試みたのだが、それらはことごとく失敗しているのだ。

 その中で、オルランドの科学探査プロジェクトが最も先行し、ディープであった。

 2Kクラス・バトルクルーザー『アルキメデス』を旗艦とする科学探査艦隊は、数隻のバトルクルーザーを超空洞探査で喪失したあと、ついに「2Kクラスでは乗り切れない未知の何かがある」と認めざるを得なくなった。そして、防衛上の理由からその「何か」の正体を確かめる必要が浮上した。

 科学探査艦隊は、人口惑星の外郭防衛網を構成する100Kクラス・バトルシップの配備を申請した。これは、サリー人と対峙していた時代には認められなかったが、対サリー戦後には積極的に推進された。

 結果として、100Kクラス・超大陸級戦艦ララミディアの探査配備が決定された。

 ただし、オルランド人のララミディア乗り組みは認められなかった。ハイプだけが乗り組み、超空洞に向けて進発した。

 目的地は、超銀河団の泡構造を突っ切って隣の超銀河団に到達することである。距離にして一億光年。移動する全長100キロメートルの都市にほぼ匹敵する超大陸級のスペックからして不可能ではないはずだった。

 しかし、超空洞に入って航海を初めてすぐに、進路警戒にあたっていた搭載無人2Kクラス艦が次々と消息を絶った。

 ララミディアは残った搭載艦を撤収させ、速度を落とした。そして、バトルシップ(BS)をベースシティ(BC)から分離させ、ララミディアBSだけでそろそろと進んだ。だが、突然見えない壁に阻まれ、ララミディアBSは前進できなくなった。全てのセンサーは宇宙が続いていることを示しているのに、前進ができないのだ。

 通常の宇宙艦がそれと気付かないで巡航していれば、激突して粉砕されているところだ。慎重に進んだララミディアBSは、そうならずに済んだだけだ。

 しかし、ララミディアBSでは前進できない理由を解明できなかった。

 オルランドのエース級科学者の調査を必要とする、という結論が出され、ララミディアBSはベースシティを回収して帰還の途についた。

 そこで、未知の宇宙艦隊が出現した。

 その艦隊はオルランドから見ても全くの未知であり、オルランドが知るどのような勢力よりも強力な砲を備えていた。

 ララミディアの乗組員達は面食らった。ララミディアも人口惑星外郭防衛網を担うために建造された以上、強力な武装を持つ。しかし、ハイプには発砲の権限がない。科学探査でそれが必要とされるとは考えられていなかったし、人に擬態した空間構造でしかないハイプは通常の意味で殺すことはできないのだ。

 だが、ララミディア艦長となったハイプ、チチ181は剛胆だった。周囲からよく見える艦長席で、艦が揺れたときに巨乳を揺らすために艦長に指名されたと揶揄されたチチ181であったが、むしろ性格的に艦長に向いていた。警戒用に発進させた搭載2Kクラスが一瞬で蒸発する光景を見て、艦長は「全兵装使用自由(オール・ウェポンズ・フリー)を」命令した。

 警戒艦隊はほぼ壊滅したが、破壊力がありすぎてまず使用されない艦首恒星破壊砲の一撃が敵艦隊に決まり、残存艦は撤退に成功した。

 そして、残存艦が下がるともはや謎の艦隊とララミディアを隔てるものはなかった。

 建造されてからほぼ使用されることの無かった超大陸級の兵装が放たれた。

 相打ちだった。

 敵の放った未知の兵器は、既知の技術では破壊できないはずの、ララミディアBSをほぼ残骸に変えた。一方で、ララミディアBSの射撃も敵艦隊を潰走させた。

 結果は痛み分けであった。

 ララミディアBSの残存乗組員達は、ララミディアBCに救助され、ララミディアBCのみが単独でオルランド勢力圏への帰途についた。

 超大陸級BSの外部要因による初損失。その事実にオルランドは震撼した。圧倒的な技術優越によるオルランドの優位は揺らいだのだ。少なくとも技術水準において、オルランドと同等ないし、それを上回る敵対勢力の存在が明らかになったのだ。

 サリー人の場合のように絡め手で攻めることもできない。今回は、敵の根拠地すら分からないのだ。しかも、敵が撤退した先は、不明のバリアの向こう側で行くことすらできない。

 オルランドは混乱した。

 多くのものは戦力強化に走った。

 だが、そこで皇帝が釘を刺した。

 「相手が何者なのか、まだ分かっていないのだ。超銀河団の泡構造の向こうから来た勢力らしい、ということしか分かっていない。まずは相手を知ることが重要だ。戦いはその後でも遅くない」

 結果として、その訓示はオルランドの初動を遅らせ、軍事的な苦戦をもたらすことになる。しかし、その代償として多くの知識が得られ、オルランドの存在意義、つまりなぜオルランド人に不死性が与えられたのか、何をなすことを期待されたのか、そもそも銀河三重衝突を起こしたのは誰かの知識をもたらすことになる。

 だが、我々はその答えを知ることができない。この謎の敵との最終戦争に辛うじて勝ったあと、オルランド人達は「そうか分かったぞ」という言葉を残して消えてしまうのである。何が分かったのはを説明する前である。

 使命を果たしたオルランドは不死性を解除されて死滅したとも、超銀河の泡の向こう側や異空間で戦い続けているとも言われるが真相は今もって不明である。彼らが本当に人間であったのかもコンセンサスが取れていない。ただの亡霊であったという意見も根強いが科学的に承認されたことはない。

(遠野秋彦・作 ©2012 TOHNO, Akihiko)

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